パリ協定と各国削減目標の間にある大きなギャップ

2020年、ついにパリ協定が始動しました。
パリ協定に参加している約200か国は、世界の平均気温の上昇を、産業革命前から比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をすることに約束しています。
パリ協定では、この約束を達成するため、各国がCO2排出量の削減目標を定め、「自国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution: NDC)」という形で国連に提出することを義務付けています。

各国が提出したNDC(UNFCCCウェブサイト内)

昨年10月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」を発表してから、多くの国や企業、自治体などが、気温上昇を2℃未満ではなく、1.5℃に抑える方向へと舵をきり始めました。
その実現には、世界のCO2排出量を2030年頃に45%削減し、2050年頃には実質ゼロとしなければいけません。


出典:IPCC (2018) Global Warming of 1.5 °C (Summary for Policy Makers) IPCC.

 

しかしながら、現在提出されている各国のNDCに書かれている削減目標や宣言などを足し合わせても、今世紀末には約3℃の気温上昇が見込まれています。

 

出典:Climate Action Tracker: Tempertures

 

つまり、パリ協定の目指す目標と現在各国が掲げる目標との間には、埋めなければならない大きなギャップがあるのです。そのためには、各国がNDCを引き上げ、できる限りの対策を早急に進めていくことが不可欠です。

 

出典:Climate Action Tracker: Emissions Gaps

 

今年2020年には、パリ協定が採択されたCOP21の決定文書(1/CP.21 para25)に基づき、各国はNDCを見直し、国連に再提出することになっています。
世界各地で熱波や洪水などによる被害が続く一方で、なかなか埋まらないパリ協定の目標までの大きなギャップへの危機感から、アントニオ・グテーレス国連事務総長はこれまで、各国政府に対し、NDCの引き上げを何度も呼びかけています。

2019年9月に開催された国連気候行動サミットでは、チリの先導により「Climate Ambition Alliance」が発足しました。この連盟には、COP25開催時点で、すでに73か国がNDCを強化して提出する意思を表明しています。またEUではCOP25期間中に「欧州グリーン・ディール」という政策パッケージを発表し、2030年の削減目標を50~55%以上に強化するという提案が盛り込まれました。EUは今後、これを踏まえたNDCの見直しを行う見込みです。

2015年のCOP21の決定によると、各国はCOP26(2020年 11月9日~19日/イギリス・グラスゴー)の9から12か月前にNDCを再提出することになっています。ここで重要なことは、パリ協定の目標達成に貢献できるように、削減目標と対策を強化したNDCを再提出することです。9か月前という期限があることを理由に、見直しをしないまま再提出するべきではありません。

 

日本が掲げる目標

日本政府は、2015年7月17日に国連に提出したNDCで、2030年度に2013年度比でマイナス26%という削減目標を掲げています。

環境省ウェブサイト:日本の約束草案(2020年以降の新たな温室効果ガス排出削減目標)
UNFCCCウェブサイト:日本が提出したNDC

気候変動に関する国際的な研究機関の調査結果では、この目標はパリ協定の目標達成には著しく不十分であると評価されています。

出典:Climate Action Tracker: Japanから一部加工

 

パリ協定の目標を達成するためには、世界が一丸となって一刻も早く対策を進めていくことが必要です。
いよいよ始まったパリ協定をより実効性のあるものとするため、日本を含む各国がNDCを大きく引き上げて、国連に再提出することが期待されます。

 

<その他の参考情報>

「IPCC1.5℃特別報告書」ハンドブック:背景と今後の展望
(地球環境戦略研究機関(IGES))

「脱炭素社会へのエネルギー戦略の提案―2050年CO2排出ゼロの日本へ」
(自然エネルギー財団)

環境省ウェブサイト:地球温暖化対策計画

2030年に26%削減、2050年に80%削減という中長期目標が記され、それらを達成するための対策計画が盛り込まれています。計画は3年ごとに見直しを検討することとされており、今年はその見直しが行われることが見込まれます。

経済産業省ウェブサイト:エネルギー基本計画について

日本のエネルギー政策の基礎となる「第5次エネルギー基本計画」が2018年に発表され。再生可能エネルギーを主力電源化するため、取組を早期に進めていくとされています。現在日本政府が公表している2030年における再生可能エネルギーの目標は22~24%です。エネルギー基本計画は少なくとも3年ごとに必要な見直しを検討することとされており、今年はその議論が開始されることが見込まれます。

出典:経産省「長期エネルギー需給見通し(平成27年)」

 

 

JCIウェブサイト内ページ:気候変動対策の参考情報
気候変動対策を進める上で参考となるリンクを随時追加していきます。ぜひご覧ください。